Porothramycin Bの全合成

Porothramycinは以前東京にあったブリストル万有研究所で単理構造決定された微生物由来の抗生物質で、有名なanthramycinに非常によく似た構造を有する。Porothramycin Aはヘミアミナール部分がOH体でBはMeO体という違いであるが、両者とも不安定で我々がサンプル請求をした時点でフリーザーに保管されていた化合物は全部分解しているという返事をいただいた。AnthramycinはニュージャージーのHoffmann-La RocheでMilan Uskokovicが最初の全合成に成功したと報告されたが、本当にそうなのかイマイチ確信が持てない。2番目の全合成はコロラド州立大学のJohn Stilleが飛行機事故で亡くなった月(1989年7月)のJACSに発表されている。しかし、実験項を見ると最終ステップでメタノール中少量の塩酸で脱保護操作をしているが200 mgの出発物を使っているにもかかわらず、最終物を単離しておらず、粗生成物のNMRがUskokovicに送ってもらった天然物のピークと一致したという曖昧な記述がある。(論文最後のセンテンス;…and isolation of anthramycin (1b) was carried out by the original procedure to give crude product, whose 1H NMR spectrum was compared to an authentic sample.) とにかく、anthramycinもporothramycinも非常に不安定で最終物を純粋な化合物として単離するのはそれなりの工夫が必要である。

“Total Synthesis of (+)-Porothramycin B,” T. Fukuyama, G. Liu, S. D. Linton, S.-C. Lin, and H. Nishino, Tetrahedron Lett.34, 2577 (1993).

最終化合物の不安定性に関しては身に染みていて、最後にどうやって単離操作をしたかを注目していただきたい。
Porothramycin Bの出発原料は安価なL-グルタミン酸 (1-1) で、まずアミノ基をCbz基で保護してから、以前藤沢薬品から報告されたグルタミン酸やアスパラギン酸の末端のカルボン酸をフリーにする方法を用いた。すなわち、パラホルムアルデヒドとp-TsOHでベンゼン中Dean-Stark trapで水を除きながら還流させるとオキサゾリジノン体 (1-2) が高収率で得られた。次にカルボン酸をチオエステル (1-3) に変換し、「福山還元(反応開発のページを作ったらそこに掲載予定)」と得られたアルデヒドをアセタールとして保護して (2-3) を得た。以前、UC-BerkeleyのHenry Rapoport教授のところでアスパラギン酸を使って同様の還元をしたら60%の収率しか得られなかったという報告があったが、実験項を見たらEt3SiHを一気に加えていて、反応液が沸騰していた。大量スケールでこの反応をやるにはEt3SiHをゆっくり滴下して反応温度を40度以下に押さえておくのが肝要である。(それ報告したの?って聞かれると、さーて、どうだったかしら)(2-3) をメタノール中NaOMeで処理するとラクトンの開環とそれに続くホルムアルデヒドの脱離によって (2-2) が得られる。
市販の3-methoxy-2-nitorobenzoic acidから酸クロライド (1-2) を作り、アミン (1-1) と2層系で反応させてアミド (1-3) を得た。次にエステルをアルコールまで還元し、アセチル化して (2-2) に変換した。LiBEt3Hは少々高価なので0.1当量用い、過剰のLiBH4で再生するという文献既知の方法を使った。(2-2) はCSAーquinolineという当研究室ではよく使う方法で環化脱水してエナミド (2-1) が得られた。
(1-1) を含水THF中でブロモ化してから脱水して得られたブロモオレフィンからHeck反応で側鎖を伸ばすのが当初の計画であったが、収率がなかなか上がらなかったので断念した。そこで、Vilsmeier-Haack反応でまずアルデヒド (1-2) に変換し、ついで安定イリドを用いたWittig反応で (2-2) を得た。(2-2) のニトロ基を亜鉛還元し、アセテートの加メタノール分解後にアミンをAlloc基で保護した。
(1-1) のアルコールをSwern酸化すると、生じたアルデヒドにカルバメートの窒素が付加して環化体 (1-2) が得られた。ここでAlloc基をパラジウム触媒とピロリジンで脱保護するとヘミアミナール体 (2-2) が生成した。ところがこの化合物は非常に不安定なのでflash chromatographyで粗生成物を得たが結晶にはならなかった。そこでメタノールを含んだ酢酸エチルに溶かし、冷蔵庫に放置することで綺麗な結晶を得ることができた。とにかくヘミアミナールってやつは扱いが難しい。