Morphineの全合成

モルヒネって言う化合物は勿論子供の頃から聞いたことがあったが、構造式も見ればモルヒネと分かる程度で全合成してみようとは思っていなかった。グループミーティングで学生がつまらない論文紹介や発表をしている時など、ボスとしてその部屋から退出することはさすがに出来ないが、他のことに注意を向けることはできる。それは教授会でも起こり得ることで、たまに良い考えが浮かぶこともある。ある日のグループミーティングでたまたまモルヒネの構造式が目の前にあった時、折よく学生がダラダラとつまらない発表をしていたので、ちょいと逆合成解析をやってみた。エッセンスとしてはHeck反応を使った骨格構築で、さすがにこのルートは誰かがやっていると思いミーティング後にオフィスに帰って調べてみた。やっぱりgalanthamineやmorphineの合成に向かってHeck反応が使われていたが、骨格構築において我々がstrychnineの全合成に用いた手法は使われていなかったので農学部の北原研から移ってきた内田賢司君(現協和発酵キリン:菅さん配下の修士学生ー菅さんが静岡県大に異動してからは横島君の配下)にやってもらうことにした。ラセミ体のモルヒネの全合成完成後は光学活性体の合成を横島君配下の小泉一二三君(現アステラス製薬)にやってもらった。その後しばらくはモルヒネ熱は冷めていたが、oxycodone合成のついでにJean d’Angeloのモルヒナン骨格の不斉合成にヒントを得たので海原浩辰君(現エーザイ)にちょいと頑張って効率的なモルヒネ合成を完成させてもらった。モルヒネは比較的小さい分子ながらいろいろと楽しませてもらい、2017年の天然有機化合物討論会では酔ったような自己満足的講演をやったのが思い出となっている。

(1) “Total Synthesis of (±)-Morphine,” K. Uchida, S. Yokoshima, T. Kan, and T. Fukuyama, Org. Lett.8, 5311 (2006); (2) “Total Synthesis of (±)-Morphine,” K. Uchida, S. Yokoshima, T. Kan, and T. Fukuyama, Heterocycles77, 1219-1234 (2009); (3) “Total Synthesis of (–)-Morphine,” H. Koizumi, S. Yokoshima, and T. Fukuyama, Chem. Asian J.5, 2192-2198 (2010); “Total Synthesis of (−)-Morphine,” H. Umihara, S. Yokoshima, M. Inoue, and T. Fukuyama, Chem. Eur. J.23, 6993-6995 (2017).

モルヒネの合成研究に関する総説は2022年に亡くなったTomas Hudlickyが書いている。彼はRice大学のWenkert教授の下でPh.D.を取得した。まだ私がHarvardに居た頃に助教授職に応募し、彼の講演を聞きにいったらセミナー室の机の上に足を投げ出していたので(その態度のでかさに)驚いたものだ。根は真面目だと思うけど、若い頃の彼の外見と行動はヒッピーと紙一重だった。お父さんはチェコスロバキアの高名な複素環化学者だったと記憶している。
ラセミ体合成ではあるが、大量スケールにも適用可能なモルヒネ全合成はNIHのKenner Rice博士によって1980年に報告された。ここでは概要を示しておく。アミド体 (1-1) をBischler-Napieralski反応の条件に付し、得られたジヒドロイソキノリンをNaBH3CNで還元して (1-2) に導いた。Birch還元の条件ではフェノールはフェノキサイドになって還元されないので、下の芳香環だけが還元を受けて (1-3) を与えた。4段階を経て合成された (2-1) を酸性条件で環化 (Grebe cyclization) すると良好な収率で (2-2) が得られた。この際のフッ素イオンの役割は不明にして知らない。ここではおそらく平衡状態で共役エノンが生成している可能性がある。その後9段階を経てラセミ体のモルヒネ (2-3) が合成された。なかなかよく考えられた全合成である。
グループミーティングの間に考えた逆合成の大略をここに示す。鍵となる反応としては (2-2) からHeck反応を使って (2-3) に変換することで、(2-2) の効率的な合成は次ページに示すようなTsuji-Trost反応をフェノール (2-1) とビニルエポキサイド (3-1) に適用すれば良いと考えた。モルヒナン骨格の構築は (2-3) から導かれるエノン (1-3) への窒素原子のMichael付加を想定し、(1-2) のケトンを利用してモルヒネ (1-1) に何とか変換すれば良い。
Strychnineの全合成の際、マロネート (1-1) とビニルエポキサイド (1-2) のPd触媒によるカップリングは室温で驚くべき効率で進行した。この経験があったので、モルヒネ合成にも適用できるのではないかと考えた。
先にも述べたが、Heck反応を思いついた後でオフィスに戻って調べたところ3グループがガランタミンの合成研究でHeck反応を使っており、Trost教授はモルヒネ合成にも適用していたことが分かった。まあ、当然それくらいは考えるよね、と言うことで特にガッカリしたわけではないが 、独自のルートを考えてみるキッカケになった。
市販のisovanillin (1-1) からOvermanが報告した経路で (1-3) を得た。即ち、フェノール水酸基をMOM基で保護してからアルデヒドをジメチルアセタール (1-2) に変換した。次にn-BuLiを使ってMOMO基のオルト位をリチオかし、ヨウ素を加えてヨウ化物にした。これを含水酢酸で処理することでアセタールを加水分解し (1-3) とした。次にMeOCH=PPh3でWittig反応を行いエノールエーテル (2-1) にした。エノールエーテルはメタノール中塩酸処理することで容易にアセタール (2-2) に変換された。
相方のビニルエポキサイド (2-3) の合成はstrychnineの全合成に使った経路を踏襲したが、とりあえずらセミ体を得た。まず安息香酸 (1-1) のBirch還元で1,4-dihydrobenzoic acid (1-2) を得た。ここでは学生は既知法を用いているが、私が院生の時にやった条件は、安息香酸のエタノール溶液にアンモニアガスを吹き込み、その後にナトリウム片を放り込むというやり方だった。液の色は全然青色にならなかったが、まあそれくらい簡単な還元だということだ。(1-2) をメタノール中酸性条件でメチルエステルに変換し、次いでNaOMeで二重結合を共役位に移動させることで (1-3) を得た。次に含水DMSO中でNBSを用いるとエステルに共役していない、より電子豊富な二重結合が反応してtrans-ブロモヒドリン (2-1) が得られた。これをDIBAL還元して得られたジオール (2-2) をメタノール中でNaOMeで処理するとエポキサイドが生成し、さらに一級アルコールをTBS基で保護することで (2-3) を得た。
(1-1) と (2-1) のTsuji-Trost反応は室温で円滑に進行し、目的物 (1-2) を高収率で得た。エーテルの立体化学は完全に制御されているが、本当は二級アルコールとはtransであることが望ましい。まあ、反応機構上無理というものだけど。
Heck反応ではパラジウムと隣接する水素がシス脱離しなければならないが、(1-1) の二級水酸基の付け根の水素はトランス配置となっているので脱離できない。手間がかかるが、光延反応で水酸基の立体配置を反転させ、メタノール中酸性条件でTBS基を除去して (1-2) に変換した。次にアセトンシアンヒドリン (1-3) を使って光延反応によるアリルアルコール (2-2) のシアノ化を行った。(1-3) は平衡状態で微量のHCNが生成するので有毒なHCNガスを使わなくても良い。院生の頃HCN (沸点-62°C) をDewarコンデンサーで液化して、金属の反応装置で100°Cまで加熱したことがあるが、ちょいと失敗すると命に関わるね。(2-1) のp-nitrobenzoyl基の除去はアルカリ加水分解すると二重結合がニトリルに共役するようになるのでLiBH4で還元的に除去した。得られた水酸基をTBS基で保護して (2-2) を得た。
ニトリルのDIBAL還元は非常に簡単で、学部生にやらせてもまず失敗はしない。後処理をすると高収率でアルデヒドが得られる。ここではアミンに変換したいので、(1-1) のCH2Cl2溶液に低温下でDIBALを加え、これにNaBH4のMeOH溶液を加えればアミン (2-1) に変換できる。(1-2) そのままではNaBH4還元は簡単には進まないだろうが、MeOHを加えることでN-Al結合が切れてイミンになるので容易に還元が進む。後処理することなくClCO2MeとK2CO3を加えればカルバメートが得られる。
さて次は肝心のHeck反応に進む。(1-1) を図のような条件で加熱することで円滑に反応は進行し、シリルエノールエーテル (2-1) が生成したが、TBAFで処理してケトンとした後にケトン (2-2) として単離した。前に説明したように、パラジウムがシス脱離する (1-2) ように水酸基を反転させなければならなかった。
当初考えた (1-1) からモルフィナン骨格の構築経路としては、まず酸性条件下のアルドール縮合でアセタールとケトンからα,β-不飽和ケトンを構築し、さらにカルバメートからの分子内Michael反応を誘起することだった。ところが、実際の反応はカルバメートとアセタールの縮合によるアシルイミニウム塩 (2-3) を経由するもので、高収率で (1-2) が得られた。
モルヒナン骨格 (1-1) は構築したものの、ここからモルヒネに至るルートは平坦ではなく、忸怩たる思いがあるので薄く描いてある。まず (1-1) のケトンを伊藤-三枝反応でα,β-不飽和ケトン (1-2) に変換した。次にアルカリ性過酸化水素でエポキサイドを得た。β面が空いているので単一のエポキサイドが生成したが、ヒドラゾンに変換してからWharton転位を行ったが混合物となり目的とするアリルアルコール (2-2) が収率良く得られなかった。まあ、これがケチのつけ始めで、仕方ないのでNaBH4還元を行なって (2-1) を得た。ここで記憶がハッキリしないのは (1-2) の段階でケトンを還元し、それからSharpless epoxidationを試みたかどうかだ。ま、仕方ないので (2-1) のエポキサイドをラジカル的に開環すべく1,1′-thiocarbonyldiimidazoleと水酸基を反応させ、Et3Bをラジカル開始剤として低収率ながらも (2-2) を得た。
(1-1) の水酸基をDess-Martin酸化して得られたケトン (1-2) をLiAlH4で還元してラセミ体のコデイン (2-1) を得た。平面的に構造式を書くとハッキリ分からないが、芳香環はほぼ真下に位置してα面をブロックしているので試薬はβ面から接近する。ところで、在米中に慢性副鼻腔炎の手術を受けた時に鎮痛剤としてコデインを処方されたが、効き目は抜群に良かったと思う。なお、この二重結合を接触還元して得られるジヒドロコデインは鎮咳剤として今でも使われている。最後にフェノールのメチル基をBBr3で除去するとモルヒネが得られた。
兎にも角にもラセミ体のモルヒネ全合成は終わったが、これでは非効率的で恥ずかしいと思い、どうせ全合成をやるのなら光学活性なモルヒネを合成しようと思い、改良全合成に着手することになった。
今度の全合成の鍵となるのは (1-3) のようなα,β,γ,δ-ジエノンの末端にアミンを分子内1,6-付加させることだった。このような系はLUMOの末端炭素の起動係数が一番大きく、そこに嗅覚付加が起きやすいことが知られている。合成を開始してからしばらくして分かったのだが、Purdue大学のPhil Fuchs教授が、すでにこの経路でモルヒナン骨格を構築していた。(1-3) は (2-3) のPrins反応が進行すれば得られるし、(2-3) は (2-2) のHeck反応によって導くことができる。そして (2-2) はラセミ体合成にも使ったフェノール (2-1) と光学活性アリルアルコール (3-1) との光延反応で構築すれば良いと考えた。このアイデアを横島君配下の小泉一二三君に実行してもらうことにした。
上部ユニットの合成ルートはラセミ体合成と同じであるので割愛し、下部ユニットの合成をここに示す。市販のシクロへキセノン (1-1) をトルエン中で四酢酸鉛と反応させると6位にアセトキシ基を導入することが出来る。次にエノンのα位にヨウ素を入れる定番条件であるI2-DMAP-Pyで室温放置して (1-2) を得た。次いで天野エンザイムから供与いただいたlipase AKを使って酵素分割し、目的物であるアルコール (1-3) と未反応のエナンチオマー (1-4) の混合物を得た。両者は分離困難であったため (1-3) をTBSエーテルに変換してからカラム分離して光学的に純粋な (2-4) を得た。次にエノン (2-4) をLuche還元して得られた (2-3) とbenzyl-N-vinyl carbamateを9-BBNでハイドロボレーションして得た (2-2) との鈴木-宮浦カップリングを行うことで下部ユニット (2-1) を得た。
上部ユニット (1-1) と下部ユニット (2-1) との光延反応は円滑に進行し目的物 (1-2) をほぼ定量的に与えた。アリルアルコールの光延反応ではSN2反応が進行し、私自身はSN2’反応を見たことが無い。これは光延反応の反応機構上リン原子を介して脱離基と求核種が結合-解離しているために置換反応において求核剤が近傍にあるためだと理解している。光延反応は1972年頃のハーバード大学大学院のcume (cumulative examination)に出題されていて、図書館で過去問を見ていた私には一見何のことやら理解できなかった。要するにDEADが酸化剤という知識がまるで無かったからだ。
(1-1) のHeck反応はほぼ定量的に (1-2) を与えた。ここでbenzyl carbamateをLiAlH4で還元してメチルアミン (2-1) に変換し、Et2OとNaOH水溶液を加えてからセライト濾過した。このアミンを2,4-dinitrobenzenesulfonyl chloride (DNsCl) でアシル化した後に酸性条件でTBS基を加水分解して (2-2) を得た。DNs基はNs基に比べて圧倒的に早く除去できるが、反応性が非常に高いために多段階合成には不向きである。例えばNaBH4還元やn-PrNH2でも除去されてしまう。
(1-1) の水酸基をDess-Martin酸化してケトン (1-2) に変換し、トルエン中で含水TFAと加温することでPrins反応が進行して (1-3) がジアステレオマー混合物として得られた。ここで水酸基のメシル化行なって (2-1) を得たのだがα-配置とβ-配置のメシレートでは脱離条件が大いに違うことが判明した。主生成物のβ-メシレートはEt3N処理で容易に脱離し、一部は二重結合が芳香環と共役する位置に異性化してしまったが、塩基をHünig baseに変えることで共役ジエノンのみを与えた。一方、α-メシレートはEt3N処理では反応が複雑化しHünig baseで50°Cひ加熱すると分解物のみで望む共役ジエノンが得られなかった。ところが、小泉君が、α-メシレートのDNs基を外す条件に付したところ、ジエノンは観測されなかったがアミンがジエノンにMichael付加したcodeinone (2-2) とneopinone (2-3) の混合物を与えることが分かった。そこで、メシレートのジアステレオマー混合物を0°Cで小過剰のHSCH2CO2HとHünig baseで処理したところ収率良くcodeinone (2-2) とneopinone (2-3) の混合物を与えた。Neopinoneは酸処理でcodeinoneに変換できることがHenry Rapoport教授によって報告されており、Fuchs教授と同様にHCl/dioxane-CH2Cl2、室温10時間でcodeinone (2-2) に収束した。私が1972-1973年にハーバードに留学していた時はConant棟の1階の実験室に居たのだが、Phil FuchsはCorey教授のポスドクで真下の地下室で研究していた。同室にはC. U. KimさんというCorey-Kim酸化で知られている方もポスドクで居られた。Kimさんは東大薬学部出身で、修士号取得後に渡米してオレゴン大学でPh.D.を取られた後にCorey研でポスドクになられた。その後、コネチカット州のBristol Myersで長年研究されてからカリフォルニアのGilead Sciencesに転職され、そこでTamifluを開発された方である。ケンブリッジのお宅で夕食に招待され、初めて金属のお茶碗と箸を使ったことが記憶に残っている。落ち着いた、飄々とした好人物でした。
Codeinone (1-1) をNaBH4還元してcodeine (1-2) に変換し、BBr3処理で脱メチル化して(–)-morphineの全合成を完了した。ラセミ体の中間体を酵素分割しているので、その分無駄な段階があったが、モルヒネ合成としてはまずまずではなかったかと思う。
モルヒネの全合成は一段落つき、しばらくは何も考えていなかったが、Jean d’Angeloの “The Asymmetric Michael Addition Reactions Using Chiral Imines,” Tetrahedron Asymmetry, 3, 459-505 (1992) という総説をペラペラと斜め読みしていた時に、次ページのように彼も”真剣に”とまでは言えないが、モルヒネの合成の真似事みたいな研究を報告していた。彼は全合成の専門家ではないので、ピンと来なかったかもしれないが、痩せても枯れても全合成の専門家と自負する私にはすぐにピーンと来た。という事で、酵素を使わない、d’Angeloの確立した不斉合成を鍵反応としてモルヒネの全合成を横島君配下の海原浩辰君にやってもらう事にした。因みに私が名古屋大学に異動した時に海原君を井上将行教授に預けて行ったので井上先生の名前も論文に入っているが、名古屋からリモートコントロールして全合成を仕上げたのが実情である。
d’Angelo教授は (1-1) のケトンからStork先生のエナミン経由のアルキル化法で8位に酢酸ユニットを導入し、得られた (1-2) を光学活性α-フェネチルアミン (1-3) とベンゼン中環流して水を除く方法(Dean-Stark trapを使う)でイミン (1-4) に変換した。ここでMVK (methyl vinyl ketone) を用いいてdiastereoselective Michael反応が進行するというのがd’Angelo教授の発見で、(2-1) からRobinson annulationの経路を経てシクロペンテノン (2-2) を95% eeの光学収率で得ている。残念ながら、この経路は (1-1) の1位に置換基が存在するとうまくいかなかったためにモルヒネの全合成は諦めたと思う(2-1を参照)。Jean d’AngeloはGilber Stork研でポスドクをやっていたので、若い頃からエナミンやイミンを使った反応には興味を持っていたものと思う。
さて、私がd’Angeloのモルヒナン骨格合成を見て、すぐにピーン と来たのは、(2-1) で導入された酢酸ユニットを使って芳香環にFriedel-Crafts反応を行えば、生じたケトンを過酸を用いてBaeyer-Villiger酸化することで容易に1位にフェノール性水酸基を導入できると感じたことだ。(1-1) から (1-3) まではd’Angelo教授が報告したとおりに進めた。(1-3) の光学純度は>99% eeでほぼ純度100%だった。(1-3) をCH2Cl2中0°Cから室温までの反応温度で10%TfOHで処理したところ、t-ブチルエステルが外れて芳香環へのFriedel-Crafts反応が進行し、同時に三級アルコールも脱水されて (2-1) が得られた。ここでα,β-不飽和ケトンにするために含水アセトニトリル中でPhSeClを使ってセレナイド (2-2) に変換した。次に1当量のMCPBAでセレノキサイドにしたところ室温で脱離が進行してオレフィン (2-3) が得られた。通常はベンゼン中環流などの条件が脱離には必要で、おそらくここではretro-aldol-aldolの平衡が存在してケトンの状態の時に脱離が起きているのかもしれない。
(1-1) をエタノール中Cs2CO3存在下で加熱するとretro-aldol-aldol反応が進行してシクロへキセノン体 (1-2) が得られた。この段階でMCPBAを用いてBaeyer-Villiger反応を行うと室温で反応が進行してラクトン (1-3) を得た。ケトンのオルト位に電子供与性のMeO基が存在するので転位の方向は一義的に決まる。次に、(1-3) をメタノール中でK2CO3と反応させると、まずラクトンが加メタノール分解してフェノールとメチルエステルになるが三級水酸基がエステルを攻撃して5員環ラクトンを形成する。さらに塩基による逆Michael反応でジエノンとカルボン酸塩となる。これを塩酸酸性でフリーのカルボン酸にしてからTMSCHN2によってメチルエステルに変換して (2-1) が得られた。(2-1) をLuche還元するとジアステレオマー混合物 (2-2) が得られたが、粗生成物を0°Cで塩酸処理すると容易に安定カルボカチオンが生成し、フェノール性水酸基によってトラップされてシクロヘキサジエン (2-3) が得られた。
(1-1) のエステルをLiAlH4で還元して得たアルコール (1-2) をMeNH2の2,4-dinitrobenzenesulfonamideと光延反応でアミン誘導体 (1-3) に変換した。次はTPP (tetraphenylporphyrin) を光増感剤として1O2と反応させるとDiels-Alder様の付加反応でendoperoxideが生成した。これを単離する事なくEt3Nを加えると (2-1) を高収率で与えた。(2-1) の水酸基の脱水条件を色々検討したが、結局Tf2O-lutidineという条件が一番再現性良くジエノン (2-2) が得られた。
(1-1) のDNs基はCH2Cl2中0°CでPhSH-Hünig baseというコンビネーションでアッという間に除去され、neopinone (1-2) と codeinone (1-3) を9:1の混合物として与えた。この混合物を塩酸処理するとcodeinone (1-3) に収束し、NaBH4還元によりcodeine (2-1) が得られた。最後にBBr3を用いて脱メチル化し (–)-morphine (2-2) を得た。この全合成はd’Angeloのモルヒナン骨格合成にヒントを得ているものの、面白い展開となったことは理解してほしい。なお麻薬を合成するのは薬剤師の免許を持っていないと違法になるが、横島君は免許を持っているので安心、安心。