Philanthotoxin-343の全合成

Spermineやspermidineなどのポリアミン類は細胞内特に核内に広く存在しているらしく、菅さんがポリアミンが結合した化合物は核膜を透過する性質があるので面白いと言っていた。そこで色々な化合物にポリアミンを結合させるにはポリマー上に担持されたポリアミンを用いれば良いということで、菅さん配下で現在第一三共で頑張っている小林英樹君にやってもらうことになった。私の役割は「良きにはからえ」と言っただけで、このプロジェクトは最初からうまく進行することは分かっていたし、今は亡き菅さんに代わって当ホームページに収録することにした。

“Highly Versatile Synthesis of Polyamines by the Ns-strategy on a Novel Trityl Chloride Resin,” T. Kan, H. Kobayashi, and T. Fukuyama, Synlett, 1338-1340 (2002).

Philanthotoxin-343 (Wikipedia 参照) は、天然に存在するPhilanthus triangulum という蜂から単離されたPhilanthotoxin-433 (δ-phtx)の合成類縁体である。数字はポリアミンの炭素鎖を示している。Philanthotoxin-343はニコチン型アセチルコリン受容体 (nAChRs)やグルタミン酸受容体(iGluRs)の強力な非競合的阻害剤として知られている。その興味深い生理活性のためPhilanthotoxin-343 やその類縁体は様々なグループにより合成されている。
Spermidine (1-1) やspermine (1-2) などのポリアミン類は様々な微小生物や動植物に存在し、重要な生理活性の発現に関わっている。これらは細胞内のDNA やRNA と相互作用し、細胞の増殖や分化に様々な効果を発揮することが知られている。さらにこれらの連結体であるsqualamine (2-1) やPhilanthotoxin-343 (3-1) は抗癌剤や痴呆改善薬としての効果を発現するなど幅広い薬理作用を示し、医薬品のリード化合物として期待されている。
ポリアミンを担持するtrityl chloride型のポリマーとしては市販で高価な2-chlorotrityl chloride resin (2-1) を購入し、アミンと反応させてから切り出して回収率をみたところ三分の一くらいの活性しかなかった!そこでもっと効率の良いポリマーを自分たちで作ってみることにした。まず安価な樹脂としてはMerrifield resin (1-1) があるが、これに担持させてもポリアミンを回収することは出来ないものの土台としては有用である。そこで考えたのがdiphenyl(p-hydroxyphenyl)carbinol (1-2) で、調べたところこの化合物は過去に2例だけ文献に記載されていたがポリマーに利用されたことは無かった。製法は極めて簡単でdichlorodiphenylmethaneとフェノールにAlCl3を加えてFriedel-Crafts反応を行い、氷に放り込めば結晶が出てきたと思う(淡い記憶であるが)。Merrifield resinに過剰の (1-2) とK2CO3をDMF中で加熱し、水を加えて濾過し、樹脂をCH2Cl2で洗って得られた (1-3) をCH2Cl2中塩化チオニルと反応させてから無水CH2Cl2で樹脂を洗えば出来上がり。このレジンは反応後にSOCl2-CH2Cl2で処理するだけで何度でも使える(7回使っても活性が落ちないことは確認したが、学生がこれ以上やるのは嫌だということでピリオド)。今思いついたのだが、このレジンはtrityl chlorideのパラ位がエーテルなので反応性がより高くなっているが、それだけ酸性条件では弱くなる。ということでエーテル部分をスルホンにすればもっと丈夫なレジンになるかもしれない。
ここではスペルミンを導入するポリマーの合成について話すが、基本的にはどのようなポリアミンでもポリマーに担持して両末端だけフリーにして他のアミンはノシル基で保護しておけば多様なポリアミン誘導体の合成が可能となる。
Trityl chlorideレジン (1-1) にプロパンジアミンを反応させると反応点が離れているので一端だけがトリチル化される。レジンをCH2Cl2で洗浄してからNsClを加えると空いている末端だけがノシル化されて (1-2) が得られる。レジンとの反応では過剰の試薬を用いて確実に反応するようにし、使われなかった試薬はレジンを洗浄することで除くのが基本的なやり方である。このレジン (1-2) を過剰の1,4-dibromobutaneと反応させると (2-2) が得られる。レジンを洗浄後に両端をノシル基とAlloc基で置換された1,3-propanediamine (2-1) と反応させれば (3-1) が得られる。
レジン (1-1) のAlloc基をパラジウム触媒とピロリジンで除去し、得られた末端アミンをN-tutyryl-L-tyrosineのp-nitrophenylエステル (2-1) でアシル化して (3-1) に導いた。N-アシルアミノ酸を縮合剤を使ってペプチド合成する際に環状のオキサゾロン経由でラセミ化しやすいことはよく知られている。チロシンから (2-1) への変換は:(1) Boc2OによるN-Boc化; (2) WSCDを使ってp-nitrophenolと縮合; (3) フェノールのアセチル化; (4) TFAによるBoc基の除去; (5) butyryl chlorideによるアシル化と、ちょっと面倒な製法だが仕方ない。次はK2CO3/MeOHを使ってアセチル基を除去し、過剰のメルカプトエタノール-DBUによるノシル基の除去、そして酸性条件 (TFA/CH2Cl2) でphilanthotoxin-343 (4-) のトリフロロ酢酸塩として切り出せば全合成終了である。次ページは溶媒留去後のNMRスペクトルであり、ポリアミン合成の強力な手段であることが分かる。